ストリンドベリ演劇フェスティバル(2)

前回に引き続き、ストリンドベリ演劇フェスティバルについてご報告いたします。

  • 第一部 毛利まこによるリーディングドラマ 「ストリンドベリの女たち」
  • 第二部 バーント・ヘーグルンド氏、毛利まこ氏、抱晴彦氏によるトークショー
  • 第三部 劇団グスタフ公演 「令嬢ジュリー」

 

今日は、第二部のトークショーについてご報告いたします。

  • 上倉 あゆ子氏(司会、通訳)
  • バーント・ヘーグルンド氏(スウェーデン児童演劇の第一人者)
  • 毛利 まこ氏(ブローシッパ・アカデミー主宰)
  • 抱 晴彦氏(劇団グスタフ代表)

 

司会の上倉氏は、スウェーデン文学と演劇の研究者であり、中でも児童演劇を専門とされています。北欧文化協会の2011年9月例会では、「スウェーデンの児童演劇―子どもが鑑賞する舞台芸術とそれを取り巻く環境―」と題して講演されました。まさに司会に適任です。

 

少し長くなりますが、トークショーの様子を要約してご報告します。

 

<演劇を取り巻く環境について>

  • 抱 日本では演劇界が社会に溶け込めないが、スウェーデンでは社会に溶け込んでいる。
  • ヘーグルンド スウェーデンの演劇人は、大体教員と同じ位の収入がある。2000年代に入って少し変化したが、かつては積極的に公共劇場を整備する政策がとられた。現在までに25の公共劇場がある(レーン単位)。
  • 抱 日本では劇場に足を運ぶ人が少ないが、スウェーデンではどうか?
  • ヘーグルンド スウェーデンではレーン毎に劇場があり、税金が投入されている。劇場だけでなく、公民館、図書館、学校などでも上演される。子供たちは年に1回は観劇する機会がある。
  • 抱 日本には劇団が6,212団体ある。結成してすぐに解散する劇団が大半で、稽古場を持てない。
  • ヘーグルンド 公共劇団は、自分たちの劇場を持っている。稽古場、大道具、小道具や道具を作る作業場など全てある。フリーの劇団もあるが、助成金が出ている。
  • 抱 公共劇団の作業場は借りられるのか?
  • ヘーグルンド 公共劇団が劇場の作業場を使用しているため、借りることは出来ない。しかし、他の公共施設を借りることは出来る。
  • 抱 日本では作業場がないので、大道具の制作は外注している。
  • 抱 日本では46億円の助成金があるが、NHK交響楽団や劇団四季など、大手にしか支給されない。
  • ヘーグルンド 日本の国家予算のうち、文化芸術には0.1%があてられる。スウェーデンでは1%で10倍だ。
  • 抱 大使館で芝居をやるというのは、他の国では考えられない。スウェーデンのお国柄だ。

 

<劇団や演劇人について>

  • 毛利 演劇のシーズンについて教えて欲しい。
  • ヘーグルンド まず、日本に呼んでいただき、日本人がストリンドベリを演じているのを観て感銘を受けた。劇団のシーズンだが、夏と秋(9~12月)に公演が多い。2~4月も、秋ほどではないが公演がある。今の季節はクリスマス公演、夏は野外劇が多い。
  • 毛利 巡回劇場もある。
  • ヘーグルンド 国立巡回劇場のパンフレットを回覧する。この劇場は、市民運動から発祥した。かつては数百人が雇用されていたが、現在は常勤者が減り、各地の劇場とのコラボレーションが増えた。
  • 抱 王立劇場について聞きたい。
  • ヘーグルンド ストックホルムにはDramatenとOperaがあり、国が所有している。劇場には国から助成金が出るが、その中から劇場が建物の賃料を払う。毎年交渉がある。国立として、古典から現代劇、そして児童演劇まで幅広く演じている。
  • 毛利 俳優を養成する仕組みは?
  • ヘーグルンド ストックホルム、マルメ、ヨーテボリ、ルレオの4か所に学校があり、毎年8人が入学する。合計30人弱が、3~4年の専門教育を受けるが、全員に仕事があるわけではない。演劇教育はお金がかかる。航空産業の人材育成の次にお金がかかっている。キャリアの始め方として、専門教育を受けることから演劇の世界に入ることもあるが、現場の活動を始めることから入る人もいる。スウェーデンでも、副業を持ちながら活動している人は多い。
  • 毛利 日本でもアルバイトをしながら活動しているが、スウェーデンでもそうだと聞いて驚いた。バーントさんは、専門教育を受けた30人の中に入っていたのか?
  • ヘーグルンド 私の時代にはシステムが違っていたが、専門教育を受けた。
  • 毛利 昨日バーントさんのワークショップを受けたが、ロシアの演出家のように理詰めで考えるわけでもなく、シナリオがなく自由に演じる形式だった。
  • ヘーグルンド スウェーデンの児童青少年演劇の中には、脚本から作品を始めるのではなく、体を動かすことから始めることが多い。『ねむるまち』は、名古屋の劇団うりんこからお話があり、実現した。約半年のステップを3回に分けて作品を作り上げた。スウェーデンでは当たり前のスタイルだが、日本では非常に珍しい。スウェーデンでは経済的なプレッシャーが少ないが、日本では興行的に成立するかどうかが、最大の関心事だ。
  • ヘーグルンド ここで大事なのは、お金が少しあるとどんな作品を作ることが出来るのかということを良く考えることだが、日本ではまず興行の事を考えてしまう。考え方を少し変えてみてはどうか?

 

<質疑応答>

  • 質問者 (ご質問を書き取れませんでした)
  • ヘーグルンド 民話・昔話・おとぎ話しは児童演劇に多いが、必ずしも古典的なスタイルではなく、時代の要素を組み込んでいることが多い。各公共劇場のプログラムは、様々なジャンルをミックスしたものになっているので、古典もあれば、若い作家の書いた現代劇、児童演劇が含まれている。スウェーデンには歌舞伎や能などの古典劇がないので、古典というとストリンドベリなどが該当するが、現代的で大胆なアレンジがされることが多い。例えばパンクバージョンなど。
  • 北川 美由季(当会理事) スウェーデンのアンダーグラウンドシーンの活動を教えていただきたい。
  • ヘーグルンド ポエトリーリーディングなど、スウェーデンでも朗読と音楽のコラボレーションなどの活動が活発に行われている。Dramatenなど、既存の団体と競合する一方で、新しい可能性が生まれてきている。自分で創作活動をしている人がたくさんいる。
  • 抱 バーントさんにとって、演劇とはどんなものか?
  • ヘーグルンド テレビなどで物を売ろうとしていたり、いろいろなことを同時にやる必要があり、せわしない世の中だ。そんな時こそ、3歳の子供たちをこの会場のような小さい場所に集め、目線んを子供たちの高さに合わせて、きちんと向き合う事が大切だ。

 

さて、ヘーグルンド氏が舞台を作り上げてゆくプロセスについて語ろうとしているのに対して、抱氏は主に制作面・興行面に関心があり、やや議論がかみ合っていない感じを受けました。

 

それはそのまま、スウェーデンと日本の演劇のおかれた状況の違いなのでしょう。

 

その違いを踏まえた上で、ヘーグルンド氏は最後にあえて、物事に取り組む姿勢について語りました。演劇人であってもそうでなくても、とても参考になる言葉だと思います。

 

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コメント: 1
  • #1

    北欧文化協会 (日曜日, 17 2月 2013 21:03)

    ご指摘により、次の3点を訂正しました。
    ご指摘ありがとうございました。

    (誤)ヘーグルンド 日本の国家予算のうち、文化芸術には0.1%があてられる。スウェーデンでは0.01%だ。
    (正)ヘーグルンド 日本の国家予算のうち、文化芸術には0.1%があてられる。スウェーデンでは1%で10倍だ。

    (誤)抱 東京には劇団が6,212団体ある。結成してすぐに解散する劇団が大半で、稽古場を持てない。
    (正)抱 日本には劇団が6,212団体ある。結成してすぐに解散する劇団が大半で、稽古場を持てない。

    (誤)ヘーグルンド 『眠る町』は、名古屋の劇団うりんこからお話があり、実現した。
    (正)ヘーグルンド 『ねむるまち』は、名古屋の劇団うりんこからお話があり、実現した。